くうきのいろ: 2010-02-03

2010-02-03

きらめく 白い紙袋の旗

3時半にうちを出た。空港まで40分のドライブ。

出掛けに お父さんがいつもにはなく 笑顔の奥が寂しそうだった。


早めについて、空港の売店でおみやげをお母さんと吟味して買うと、天満屋の大きな紙袋にいれられてしまった。あ、袋いいです、と言いそびれて。


袋からだして荷物をまとめると、お母さんが「紙袋持って帰るよ」と言ってくれるから、手渡しながら半分冗談で「じゃあ 母さん、これ目印の旗にして振ってね!」と 言って笑った。


ANA 17:00発。
飛行機にのる橋の窓から展望デッキをみると、すぐそこにお母さんの姿。
わぁ!っと手をひとしきり振って、じゃあ いってきます、と心の中で唱えて飛行機に入った。

席は翼の少し前、窓際。
伝えてたから 見えやすい場所にお母さんがいてくれるのが見える。
手を振ってくれてる。

と、お母さんの手には、さっき 私が手渡した 紙袋!
ちょうどいいサイズに折り畳まれて 母さんの手におさまっていた。

それが 夕陽をうけて 真っ白に反射してキラキラ輝いていた。

お母さんの側からは私の姿は見えないのに、まるで見えてるかのように手元で小さく一生懸命振ってくれてる。

すっかり小さくなったお母さん。
一人になったあとの帰り道や、うちについた時のがらんとした感じに受けるだろう気持ちをおもうと、この瞬間が毎回つらすぎる。
今回も何日も前からこの辛さをおもうと、胸がしくしく痛んだ。

でも、お母さんは、「母さんは大丈夫だから心配せんのよ」と気丈に送り出してくれた。

そして、展望デッキで一生懸命、冗談いって笑った紙袋の旗を振ってくれていた。
パタパタここまで振る音が聞こえてきそうで、いとおしくて仕方なかった。

向こうからは二重窓のせいでこちらは見えないのは分かっていながら、私もなんとか届きますようにと手を振り続けた。

エンジンがかかり、滑走路へと飛行機が動きだすと、それまで手元でパタパタ振ってくれてた手をぐんと伸ばして、大きな弧を描いて手を振ってくれてるのが見えた。

だんだんと 小さくなりながら右に流れていく景色の中で、お母さんの白い「旗」は はっきりと、くっきりと、わたしに向けて振られてるのがわかった。

小さなはずのお母さんが、展望デッキのお見送りの人の誰よりも大きく見えた。
すごく哀しい、すごく切ない、だけどすごく安心であたたかい、なんともいえない景色だった。

わたしに いつもいつでも変わらない無償の愛をくれるお母さん。

いろんな想いをぜんぶ笑顔に変えて、心配させないように爽やかに送り出してくれるお父さん。

ありがとう、ほんまにありがとう、と、空気を越えて伝わるようにと心の底から祈った。

ビデオ

こどものころのビデオを観た。
2歳のおひなまつりや、3歳の大雪、6歳のお誕生会やお正月。

ぜんぶお父さんが、私やみぃが遊ぶ姿を、静かに時々やさしく話し掛けながら撮ってくれてた。
若いお母さんがときどき現れ、わたしがどんなにしつこくおんなじ遊びをしても、にこにこ笑いながらいっしょに遊んでくれてた。


私が覚えてる景色の中のお母さんは完璧「お母さん」なのに、ビデオに映るお母さんは、今の私より若かった。

ビデオでみるとずいぶん昔のことに思うのに、その時の鮮明な記憶が私の中にきちんとあるっていうのが奇妙な感じだった。
こんな子供に話してもわからないだろう、と思えるようなことでも、自分の中には記憶があって、あなどっちゃいけないなとまた思ったり。


今の私より若いお母さんと30歳にもならないお父さんのすごさを想った。


こうやってたっぷりもらった愛情でわたしの今のつぶつぶはできている。